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2010 年 個展によせて

 


                           岡 惠介  (東北文化学園大学教授)

 数葉のインターネット経由の画像を見て、江花先生が一年以上の時を費やして描かれた絵について語る ことなど、絵の専門家でもないわたしにできるわけもない。ただ、江花道子滞欧作品という先生のHP(http ://www.evaevana.yic.or.jp)では、1998年以来の先生の作品を見ることができる。そんな時系列の中で、 2009年の作品を定点観測できたのは興味深かった。  先生がふとした複数の人物の情景を描く時、もっとも江花ワールドの濃厚な匂いが感じ取れるように思っ ていた。しかし今回は、古いデルフトのタイルをキャンバスに埋め込んでいくような、描きこんだ模様化、単 純化のなかに、先生らしい描写のエッセンスが光っているように思う。  

 「ベネチアぼたん雪」のような祝祭的風土の大空間を構成し描ききることが、仏教でいう自力とするならば 、近作は偶然性による美の発現を否定しない他力の道になぞらえられるのではなかろうか。思いを、行い を正しくし、精いっぱい筆をふるったのちは、神(仏)の前にすべてをゆだねるところから生まれる美。  柳宗悦は、「最も美しい絵画は必然に模様に近づきはしまいか。」(「美と工藝」『工藝文化』)と問うた。 復活祭が近い。人はみな、現世という舞台から一人ずつ去っていくわけではあるが、江花道子が画面に閉 じ込めたありふれた懐かしい情景は、遠い未来の人々にも共感をもって受けとめられ、その永遠性は賛美 されていくだろうと思える。

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